この世に楽園はあるのだろうか。もとよりあの世にも楽園はあるだろうか。いやきっとあるに違いない。そんな微かな望みを・・・。いや希望を・・・。生きる力を・・・。人は時に道に迷い、苦しみ、嘆くものだ。芥子粒程になった微かな希望の光を胸にいだきながら生き続けてきた。だがいつまでも闇の中にただ独り・・・。生きる曙光はどこにあるんだろう。一筋の光はどこにあるんだろう。誰にもわかってもらえないこの心の苦しみ。いっその事、あてのない、そして出口の見えない旅に出かけようそう思った。歩きはじめた。駅が見えた。荏原中延・・・だ。夢遊病者のように歩いていた。なんで隣町の荏原中延にいるんだろう。しばらく歩くと昔の武蔵小山の面影が懐かしい雰囲気の商店街に出会った。こんなところがまだあるんだ。なんだか嬉しくなった。昔に置き忘れていたものを想いだしたような、どこか懐かしい胸の奥がチクっとする郷愁を呼び起こす感覚が襲ってきた。
海を見たかった。遠く遠く歩いて海に行きたかった。心の隙間に吹きすさぶ冷たい風は温かくて眩しい光の波紋がきっと心を埋めてくれるとおもった。でも何故かその場から動けなくなった。何故だろう。さっきから心地いいメロディーが聞こえてくる。何の曲だったか。そうだ「楽園ベイベー」だ。リップスライムの名曲じゃないか。どこか優しげな声。その声に誘(いざな)われるように路地裏に入っていった。ここだ。ここから聞こえる。看板を見た。「アヤノヤ」こんなところに酒場があるんだ。しばらく佇んだ。いつまでも聞こえてくる。僕の耳朶にはどこか海のさざ波のように心地いい。つい誘われるように気がついたらドアノブに手がかかっていた。ドアを開けてみた。一瞬微かに瞳孔が開いたような気がした、一目で祖父が孫を応援している、そんな優しげな微笑を湛えた眼差しと目が合った。微笑みかけられた。「こっちへおいでよ」そんな声が聞こえた気がした。明るくて弾ける笑い声と輝く笑顔に包まれていた。そこには、どこか飲み屋にありがちな淫靡さと暗さとは無縁だった。はじめてみる光景だった。健康的で清潔感に満ちた老若男女の集う、まさに地上の楽園だった。優しさを見つけた。自分の居場所を見つけた。ついに見つけたのだ自分だけの楽園を、そうみんなの楽園を。
武蔵小山温泉 清水湯若旦那談。
*初の飲み屋系のブログ。今回は1010編集部の皆様と今後の方針を語らいながら楽しい飲みの時間でした。相当酔っぱらってしまって写真を現場で撮っていたのですが常連さんが沢山映り込んでいたので使えないと判断、店主に直接お願いして写真データをいただきました。ありがとうございました。食べて美味しい、飲んで美味しいを書いても面白くないのでポエム風にしました。こんどは奥様と一緒に行きます(笑)
アヤノヤ
03-6421-6299
東京都品川区東中延2-7-18
15:00~23:00
定休日 水・日曜日
▼清水湯からのアクセス